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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)126号 判決 1992年6月11日

愛知県名古屋市緑区鳴海町文木17の2

原告

棚橋胖

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

深沢亘

同指定代理人通商産業技官

荒崎勝美

加藤公清

通商産業事務官 廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和58年審判第3717号事件について平成3年3月29日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和54年9月20日、「ヒートパイプ方式清涼安眠枕マット」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和54年特許願第120974号)をしたが、昭和58年1月7日、拒絶査定があり、これに対し、同年3月2日、審判の請求をし、同年審判第3717号事件として審理されたが、平成3年3月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年6月4日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本願発明は、ヒートパイプ方式清涼安眠枕マットに関するものである。

(2)  当審が平成2年11月7日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願発明で使用する冷熱剤に関する開示が不備であるから、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

(3)  これに対して、請求人(原告)は平成2年12月3日付けで意見書を提出し、本願発明で使用する冷熱剤に関し、(一)平成2年6月2日提出の文献に記載された公知の冷媒溶液であり、これをヒートパイプ方式で活用したものであること、また、冷媒体には各種あり、耐久的安定性を必要とするため、本願発明は実用的な薬剤に限られ、しかも化学変化しない物質であり、しかも繰り返し溶解(吸熱)結晶(放熱)作用を30℃-35℃程で還流させるには、シャーベット状態の高濃度水和物であること、及び(二)リン酸アンモニュウムは水溶液であり、高濃度のシャーベット状である、と意見を述べている。

しかしながら、本願明細書中には、本願発明で使用する冷熱液としてシャーベット状態の高濃度水和物を使用することは記載されていないだけでなく、本願明細書の記載を検討しても、本願発明の安眠枕マットの奏する作用効果である「冷蔵庫で冷やしたり、注水の必要もなく、常時体温より5~10℃の低さに頭部を冷し清涼感が得られる」ということを達成するためにどのような組成の冷熱液を使用すればよいのかは、特許請求の範囲の記載からは勿論、発明の詳細な説明の記載を検討しても明らかではない。更に上記文献には、潜熱蓄熱材及びその特性についての開示があるのみで、上記本願発明の特定の作用効果を奏するために、どのような冷熱液を使用するかを明らかにするものとは認められない。また、リン酸アンモニュウムの水溶液が高濃度のシャーベット状であること、及びこのようなものが本願発明が意図する上記のような作用効果を奏するとする具体的根拠も本願明細書及び図面の記載を検討しても見い出すことができない

したがって、依然として上記の拒絶理由で指摘した不備の点は解消しておらず、本件特許願は、上記の理由によって拒絶すべきものである。

3  審決の取消事由

審決は、本願明細書及び図面の記載では本願発明で使用する冷熱剤に関する開示が不備であるから、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていないとする。

原告は、昭和55年11月16日付けで特許庁に対し手続補正書を提出したが、昭和62年4月28日、手続補正却下決定がされ、その決定は確定したが、その決定は違法であって、上記の手続補正書による手続補正は認められるべきものであった。

そして、手続補正が認められていれば、本願発明で使用する冷熱剤に関する開示は不備のものとはならなかったものである。

審決の判断は、上記の違法な手続補正の却下に基づいてされたものであり、違法であるから、取り消されるべきである。

第2  請求の原因に対する被告の認否

1  請求の原因1及び2は認める。

2  同3のうち、原告主張の補正却下決定があり、それが確定したことは認めるが、その余は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

第3  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、同3(審決の取消事由)のうち、原告のした昭和55年11月16日付けの手続補正書による手続補正を却下する決定がされ、それが確定したことは当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告の主張する審決の取消事由について検討する。

原告の主張は、特許庁が昭和55年11月16日付けの手続補正書による手続補正を却下したことは違法であり、その手続補正が認められていれば、本願発明で使用する冷熱剤に関する開示は不備のものとはならなかったとして、上記手続補正書による手続補正前の明細書及び図面の記載に基づいて特許法第36条第3項及び第4項(昭和60年法律第41号による改正前の第36条第4項及び第5項)の要件を具備していないと判断したことの誤りをいうものと認められる。

しかし、昭和55年11月16日付けの手続補正書による手続補正は却下され、その却下決定が確定したことは当事者間に争いがないので、原告は、もはや、その却下決定の当否を争うことはできず、その手続補正の効果を主張することはできないものであるから、審決がその手続補正を考慮に入れることなく、明細書の記載要件の具備の有無を判断したことは正当であり、何ら違法と目すべき点は存しない。

よって、原告の主張は、本願発明の明細書及び図面や昭和55年11月16日付けの手続補正書の内容について判断するまでもなく、主張自体失当であり、理由がない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

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